こんにちは!しょーてぃーです!
今回は、小野寺史宜さんの
『ぼくは刑事です』について紹介をしていきます!
『ぼくは刑事です』について
本書の概要
本書はひとことで言うと
家族と仕事のはざまで揺れる、等身大の成長物語です。
本書をオススメしたい人
- 人間ドラマ重視の物語を楽しみたい人
- 刑事ものだけど日常を描く新鮮なストーリーを求める人
- 家族愛や人生の選択に共感し、心温まりたい人
31歳の刑事・松川律は、東京・下町の警察署に勤めて2年目。
ある日、長く付き合っていた恋人と
すれ違いから別れてしまい傷心の日々を送ります。
その後、高校時代のバドミントン部OB・OG会で再会した
先輩の竹本澄音と出会い、惹かれ合った二人は交際を始めました。
澄音はシングルマザーで、5歳の娘・海音と二人暮らし。
律は刑事という職業柄の真面目さもあってか、
澄音親子にも誠実に向き合い、次第に海音ちゃんからも懐かれていきます。
やがて律は澄音との結婚を意識するようになります。
しかしそんな矢先、澄音から「実は父に前科がある」と打ち明けられ、
律は大きな選択を迫られることになります。
本作はタイトルこそ「刑事」とつきますが、
ミステリー要素はほとんどなく、東京スカイツリーが見える下町を舞台に
若き刑事の2年間の人生模様を丁寧に描いた作品です。
日常で起こる些細な出来事を通じて主人公の葛藤と成長が綴られており、
読み終えた後には心がぽかぽかと温かくなるようなストーリーとなっています。
『ぼくは刑事です』のあらすじ
あらすじの概要
松川律は三十一歳の刑事で、シングルマザーの竹本澄音とつきあっている。澄音の五歳の娘・海音との距離も縮まり結婚を真剣に考えたところで、澄音から自分の父親には前科があると告げられて――。ラーメン店を経営する姉一家との交流や同期刑事とのやりとりなどを小気味よく織り交ぜながら、若き刑事の二年の月日を描く。スカイツリーの見える東京・下町で繰り広げられる心温まる人生の物語。
ぼくは刑事です より
31歳刑事・松川律、人生の岐路に立つ二年間
松川律は東京都墨田区の警察署で刑事として働く31歳。
仕事にも少し慣れてきた頃、プライベートでは大きな失恋を経験します。
律は長年付き合った恋人・由宇香との関係がすれ違いの末に破局し、
心にぽっかりと穴が空いた状態でした。
そんな失意の最中、高校時代のバドミントン部のOB・OG会で竹本澄音と再会します。
澄音は律の二学年上の先輩で、当時から明るく面倒見の良い女性でした。
現在33歳の彼女はシングルマザーとして
5歳の娘・海音を育てながら懸命に生きており、
その姿に律は好意と尊敬の念を抱きます。
そして再会を機に二人は急速に距離を縮め、やがて正式に交際を始めましたが
交際当初、律は戸惑う部分もありました。
子どもがいる女性との付き合いは初めてであり、
デートも海音ちゃんを交えたものになります。
遊園地で一緒に遊んだり、自宅で手料理を囲んだりする中で、
最初は緊張していた律も次第に海音ちゃんと打ち解け、
まるで自分の娘のように愛おしく感じるようになっていきます。
海音ちゃんも優しい「律おじさん」を慕って笑顔を見せてくれるようになり、
澄音はそんな二人の様子を嬉しそうに見守ります。
刑事という堅い職業柄か律は生真面目な性格ですが、
その実直さが親子にも伝わり、三人は家族のような絆で結ばれていきました。
澄音との温かな交際の日々の中で、律の心の傷もいつしか癒え
由宇香との別れの痛みも薄らいでいきます。
一方、仕事の面でも律の毎日は続いています。
とはいえ新人刑事の律に舞い込むのは緊迫の大事件ではなく、
近所の揉め事や交番勤務の延長のような雑多な業務が中心です。
そんなある日、律のもとに思いがけない人物から電話がかかってきました。
それは元恋人の由宇香です。
久しぶりに声を聞く由宇香はどこか怯えた様子で、
自分がストーカー被害に遭っていると相談してきました。
突然の相談に驚きつつも、律は刑事として放っておけません。
話を詳しく聞いた律は、すぐさま警察に被害を届け出るよう助言し、
可能な範囲で彼女をサポートしました。
幸い大事には至らず、由宇香は無事に問題を解決できます。
律は彼女に安堵しつつ、自分の中で過去の恋に一区切りつけることができました。
この出来事は、律が改めて「人を守る」という刑事の使命と向き合う機会にもなり、
そして何より今そばにいる澄音と海音ちゃんの存在が
自分にとってかけがえのないものだと再認識する出来事にもなりました。
澄音との関係は順調に深まり、律は次第に結婚を意識し始めます。
しかしある夜、二人で夜景を見ながら将来の話をしていた時、
澄音は意を決したように語り始めました。
「私のお父さん、実は前科があるの」。突然の告白に、律は言葉を失います。
澄音の父親は過去に犯罪を犯し服役した経歴があり、
今は出所しているものの世間体を気にして澄音も疎遠になっていたというのです。
澄音は律との将来を考える上で、この事実を隠せないと思い打ち明けました。
しかしこれは、警察官である律にとって避けて通れない重大な問題でした。
警察官は身内に前科者がいると様々な面で支障が出る可能性がありますし、
何より正義を守る立場として悩まざるを得ません。
律の胸には、愛する女性とその娘を選ぶか、
自らの刑事というキャリアを選ぶかという葛藤が生まれます。
それから律は悩みに悩み抜きます。
澄音は「辛いなら別れてほしい」とまで口にしますが、
律の気持ちは揺らぎませんでした。
彼女と海音ちゃんと過ごした日々の幸せを思い返すと、
もう二人を手放したくないという想いが募るばかりだったのです。
意を決する前夜、自問自答の末についにある決断を下します。
『ぼくは刑事です』の感想
大切な人がいる日常の素晴らしさを描いた物語
本作はタイトルに「刑事」とありますが、謎解きや犯人捜しが主軸の警察小説ではなく、
徹頭徹尾人間ドラマに焦点を当てた内容です。
物語の冒頭から、刑事ものらしからぬ穏やかな空気が流れています。
事件の謎解きやアクションはなく、
日常の風景と言葉のやり取りがしみじみと描かれていく展開に、
最初は意外性を感じるかもしれません。
しかし読み進めるうちに、派手な事件がなくても
人の心はこんなにも揺れ動くのだと気付かされます。
主人公の律は普段は寡黙で実直な青年ですが、内面では悩み、迷い、葛藤しています。
澄音や海音ちゃんに向き合う姿からは彼の優しさと、
不器用なほどの誠実さが伝わってきて、読者も思わず応援したくなるでしょう。
特に海音ちゃんに対する接し方には、実の父子ではないからこその丁寧さと、
それを超えて本当の父親になっていくような愛情の深まりが感じられ、胸が温かくなりました。
本作ではヒロインの澄音も魅力的に描かれています。
シングルマザーとして娘を育てる澄音は芯が強く思いやりに溢れた女性で、
律に対しても常に相手を尊重する大人の余裕があります。
自分の家族の過去を打ち明ける場面では、彼女自身も苦渋の決断だったはずですが、
それでも律の将来を最優先に考えて「別れ」という選択肢まで提示した
澄音の姿には胸を打たれました。
本作の魅力は、何気ない出来事の積み重ねから人生の機微を浮き彫りにしている点です。
例えば、元恋人からのストーカー相談を受けるエピソードも、
大事件に発展するわけではありませんが、
律にとっては自分の過去と現在を見つめ直すきっかけとなりました。
こうした日々の小さなドラマが積み重なり、
クライマックスでの大きな決断へと繋がっていく構成には納得感があります。
職場の同僚と交わす軽口も肩の力を抜いてくれる楽しい箇所で、
重くなりがちなテーマの合間に日常の明るさを感じさせてくれます。
こうした一見物語の本筋と関係なさそうなシーンも丁寧に描かれており、
それらが最終的に律という人物像を立体的に浮かび上がらせています。
読んでいるうちに「刑事・松川律」という肩書きでは語りきれない
一人の人間の人生が確かに存在してくる感覚があり、
そのリアリティが本作の醍醐味と言えるでしょう。
全体のテンポは終始穏やかで、
大事件が起こらない展開に物足りなさを覚える向きもあるかもしれません。
しかし、その静けさの中で丁寧に紡がれる人間模様こそが本作の魅力です。
ありふれた日々の尊さや登場人物の心情がじんわり伝わってきて、
気が付けば物語に引き込まれていました。
「刑事=事件を追う存在」という先入観を良い意味で裏切り、
職業の裏にあるひとりの人間のドラマを堪能できるのが本作です。
誰しも職業に関係なくそれぞれの暮らしと物語があり、
人生の選択に悩みながら生きている
そんな当たり前のことを、本書は思い出させてくれます。
最後に
ここまで本書について紹介してきました。
読み終わった頃には、松川律という人物が身近な友人のように感じられ、
彼の選択にエールを送りたくなるでしょう。
派手なサスペンスではありませんが、
静かな感動と温かさが心に残る珠玉の人間ドラマでした。
本書が気になる方は、是非手に取ってみてください!
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