こんにちは!しょーてぃーです!
今回は、結城真一郎さんの
『どうせ世界は終わるけど』について紹介をしていきます!
『どうせ世界は終わるけど』について
本書の概要
本書はひとことで言うと
生きる意味を優しく問いかける物語です。
本書をオススメしたい人
- 絶望的な状況でも前向きな物語が読みたい人
- 複数の視点が交錯する群像劇が好きな人
- 生き方について考えたい人
本書は、人類滅亡の危機が100年後に迫る世界を描いた作品です。
突然「百年後に小惑星が地球に衝突し人類が滅亡する」という
衝撃ニュースが報じられますが、猶予が長すぎて人々はすぐには実感を持てません。
しかし「どう生きればいいのか?」という問いは
じわじわと社会に広がり、人々を悩ませていきます。
本書はそんな状況下で生きる人々の姿を、6編からなる連作短編集で描いています。
物語が進むにつれ互いに少しずつ繋がり合い、
最後には一つの物語に収束します。
劇中では小惑星が皮肉にも「ホープ(希望)」と名付けられており、
絶望的な状況下でそれでも見出される希望が大きなテーマです。
終末SF的な設定ながら、描かれるのはパニックより人々の心理ドラマであり、
小さな勇気が未来への光となる過程が丁寧に綴られています。
単なる終末ものというより、
「終わりが決まっている世界でも人はどう生きるのか」を問いかける
ヒューマンドラマとして心に響く作品です。
『どうせ世界は終わるけど』のあらすじ
あらすじの概要
人類滅亡の
危機がやってくる──
それも百年後に。世界を駆け巡った
衝撃ニュースだったが、
「終末」を思わせるには
小惑星が地球に衝突するまでの
猶予が長かった。
徐々に社会に厭世感が
広まっていき……。
人びとのささやかな勇気が、
少しずつ重なり合い、
世界に希望をともしていく
奇跡の連作短編集。
どうせ世界は終わるけど より
本作は6つの短編から成り、それぞれの物語が緩やかにリンクしています。
第1話「たとえ儚い希望でも」
親友・日向を自殺で亡くした女子高生、金井希望(かない のぞみ)の物語です。
明るく皆に愛された日向が命を絶った理由が物語の鍵となります。
高校時代の回想を通じ、自己評価の低い希望に日向が遺した「秘密」と、
その末に起きた悲劇の真相が明かされます。
100年後に人類が滅亡する運命の中、
「どうせ世界は終わるのだから自由に生きていい」という
日向の大胆な行動とその結末は、希望に大きな衝撃を与えました。
日向の選択は悲しいものでしたが、その想いは希望の心に変化をもたらします。
第2話「ヒーローとやらになれるなら」
村井賢太郎は「偉業を成さなければ自分は歴史に残れないのでは」と焦り、
就職活動に打ち込んでいました。
しかし高校生のとき世界滅亡のニュースが発表され、
努力も無意味だと絶望して自堕落な生活に陥ります。
そんな彼がかつて助けた同級生・芹奈(せりな)は、
滅びゆく未来を前に誰よりも前向きで、
「たとえ小さな行動でも連鎖すれば未来を救う力になる」と信じていました。
彼女の姿に影響を受けた賢太郎は、
自分の小さな行動にも意味があるかもしれないと気付き始めます。
「誰かの勇気や優しさに救われた人がいるなら、
その人は既に誰かのヒーローだ」というメッセージが胸に響くエピソードです。
第3話「友よ逃げるぞどこまでも」
無人島で暮らす一人の男のもとに、
脱獄犯の永瀬北斗(ながせ ほくと)が逃げ込んできます。
永瀬は妻子を事件で失い、仇を殺した罪で服役していた「悲劇の逃亡犯」です。
男は密かに彼を警察に売ろうと企みますが、
永瀬と言葉を交わすうちに心境が揺らぎます。
別れ際、永瀬がかけた「全力で逃げることも戦いの方法だ」という言葉は
男の胸に深く刺さりました。
逃げることを肯定されたその一言に、
男は自分を追い詰めていた孤独から救われる思いがします。
第4話「オトナと子供の真ん中で」
小学6年生の山路芽衣(やまじ めい)、通称マジメイは誰よりもしっかり者の優等生。
彼女は幼なじみと秘密の家出を計画しますが、
その背景では終末を巡る世代間ギャップが浮き彫りになります。
人類滅亡まで80年となり、親世代は「自分たちが死んだ後のこと」と楽観視する一方、
子供世代は「自分たちは滅亡に立ち会うかも」と不安を募らせていました。
大人への反発を強める子供たちに対し、
親たちは能天気に見える態度の裏で
「残りの人生を普通に楽しく過ごしてほしい」と願っていたのです。
芽衣たちの小さな冒険は、そんな親心に見守られながら進み、
彼女自身も一回り成長します。
第5話「極秘任務を遂げるべく」
離婚したことで月に一度しか娘に会えない父は、
娘に「自分は小惑星破壊の極秘任務に就く宇宙飛行士だ」と嘘をついています。
実際はただの重機オペレーターでしたが、
娘を失望させたくない一心でヒーローを演じてきました。
しかしある日、娘から「パパの仕事を作文に書きたい」と言われ、
嘘を貫くか真実を打ち明けるか悩みます。
葛藤する彼に対し、娘は驚くべき本心を明かしました。
実は娘は父の嘘に気付きつつ、彼の夢を諦めさせたくない一心で
信じているふりをしていたのです。
この健気な思いに胸を打たれた彼は、
娘の期待に応えるべくもう一度人生を懸けて頑張る決意をします。
第6話「どうせ世界は終わるけど」
最終話では、第1話の希望が恋人の鏑木悠馬と復縁し、
その息子みっくんと3人で暮らす姿が描かれます。
空が大好きなみっくんは「気象予報士になりたい」という夢を笑われ、
不登校になってしまいました。
しかし彼が学校を休んでいる裏には、
近々打ち上げられる隕石対策ロケットを自分の目で見るという目的もありました。
クライマックスでは、希望たち家族を支えるように
過去の登場人物たちが勢揃いします。
希望の心には日向の言葉が生き続け、担任の芽衣先生が導いてくれます。
逃亡犯の永瀬も意外な形で助言を与え、
嘘つきパパだった彼も宇宙計画のスタッフとして参加していました。
さらに芹奈は計画の中心メンバーとなり、最後まで未来を信じて奔走します。
そして運命の日、皆の思いを乗せたロケットが青空高く打ち上げられ、
希望とみっくんは手を取り合ってその軌跡を見届けました。
『どうせ世界は終わるけど』の感想
それでも未来には希望がある
本作を読み終えると、漠然とした不安や孤独感が少し軽くなり、
心にぽっと明かりが灯るような感覚を覚えます。
終末が約束された世界という極限状態が描かれていますが、
不思議と読後には悲壮感よりも前向きな気持ちが残るからです。
作品全体を通じて感じたテーマは
「それでも人は希望を捨てずに生きていける」という力強いメッセージでした。
たとえ100年後に人類が滅亡するとしても、
人々はなお愛し、悩み、支え合い、小さな幸せを紡いでいく。
各編の主人公たちは皆それぞれに悩みや葛藤を抱えています。
将来への不安に押しつぶされそうになる人、
社会の理不尽に傷ついた人、自分の存在意義を見失った人…。
彼らの姿は私たちの現実とも重なります。
私たちもまた、先行きの見えない不安な時代を生きています。
環境問題や社会の分断など、
「このままでは未来が危うい」と感じるニュースが日々飛び込んできます。
そんな中で「自分が生きているうちは何とかなるだろう」
「先の世代の問題だ」と目を背けてしまいたくなる心も、正直少しわかります。
しかし本作の登場人物たちは、
まさにそうした現実に向き合う私たちに重なる存在でした。
100年という長い猶予は、「今の自分には関係ない」と
問題を先送りにするには十分な時間です。
しかし本作は、その猶予こそが登場人物たちを
静かに追い詰めていく様子を描いています。
「まだ自分は生きていないかもしれない未来」のはずが、
彼らの胸には将来への漠然とした不安が確実に影を落としているのです。
親世代と子供世代の対立に表れていたように、
終末への感じ方ひとつとっても世代や立場で
大きな差が生まれることが本作では丁寧に描かれていました。
この点はまさに現代社会の縮図だと感じました。
例えば気候変動の問題でも、「自分が生きている間は大丈夫」と楽観する大人世代に、
未来を担う若者世代が怒りや不安を募らせる構図が現実にもあります。
本作はそんな世代間のギャップや、
将来世代への責任といったテーマも内包しており、
フィクションでありながら今の社会を考えさせられました。
一方で、本作が優れているのは決して暗い社会批評に終始しないところです。
また、各編で描かれた孤独と絆の対比も心に残りました。
第3話で世間から逃げて孤独に生きていた島の男性は、
永瀬との奇妙な交流を経て「逃げてもいい」と肯定され救われましたし、
第5話の父親は娘からの愛情に触れて再び人生に立ち向かう勇気を得ました。
孤独だった彼らが誰かと心を通わせた瞬間、状況は少しずつ良い方向へ動き出します。
結局、人は一人では生きられないし、一人で絶望する必要もないのだと感じます。
登場人物たちが互いに支え合い、
自分以外の誰かのために行動を起こす場面の数々に、
人間の持つ優しさと強さを思い出しました。
全体として本作は、終末設定のエンターテインメントでありながら、
現代を生きる私たちに深い問いを投げかける寓話のようでもありました。
不安や格差、孤独、そして究極の終末観といった社会的テーマを織り込みつつも、
最後には「それでも人生は続いていくし、生きることには意味がある」と
静かに背中を押してくれる温かさが心に残る作品です。
最後に
ここまで本書について紹介してきました。
終わりゆく世界を舞台にしながらも
不思議と読後に温もりを感じられる物語でした。
本書が気になる方は、是非手に取ってみてください!
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