こんにちは！しょーてぃーです！
今回は、塩田武士さんの
『踊りつかれて』について紹介をしていきます！
『踊りつかれて』について
本書の概要
本書はひとことで言うと
メディアに翻弄された者たちへの鎮魂歌を描く物語です。
本書をオススメしたい人
・SNS上の誹謗中傷や炎上など、現代のネット社会の問題に関心がある方
・スリリングな展開を楽しみながら社会のあり方についても考えたい方
・マスメディア報道やSNSとの向き合い方に問題意識を持っている方
本作は、現代のインターネット社会に警鐘を鳴らす
社会派エンターテインメント小説です。
人気お笑い芸人・天童ショージは、不倫スキャンダルを報じられたことで
SNS上で激しい誹謗中傷を受け、追い詰められた末に自ら命を絶ちました。
また、バブル期に一世を風靡した伝説の歌姫・奥田美月も、
週刊誌による事実無根のゴシップ記事に翻弄され、人前から姿を消しています。
そうした中、匿名の存在「枯れ葉（かれは）」を名乗る人物が
ブログ上に突如《宣戦布告》と題した声明文を投稿します。
その内容は、SNSで他者を執拗に中傷していた83人の
氏名や住所など個人情報を一挙に公開するという衝撃的なものでした。
ネット上に落とされたこの“静かな爆弾”は、
時が経つごとに拡散し、名指しされた人々の生活を次々と破壊していきます。
SNSの匿名性に隠れて他者を傷つける「安全圏の狙撃手」への
静かな復讐が幕を開け、世間は混乱と恐怖に包まれます。
本作は、天童や奥田を追い詰めた“見えない加害者”の正体は何なのか、
そして《枯れ葉》の目的は正義なのか復讐なのかを描きながら、
言葉が凶器と化す現代社会の光と闇を浮き彫りにしています。
『踊りつかれて』のあらすじ
あらすじの概要
首相暗殺テロが相次いだあの頃、インターネット上にももう一つの爆弾が落とされていた。ブログに突如書き込まれた【宣戦布告】。そこでは、SNSで誹謗中傷をくり返す人々の名前や年齢、住所、職場、学校……あらゆる個人情報が晒された。
ひっそりと、音を立てずに爆発したその爆弾は時を経るごとに威力を増し、やがて83人の人生を次々と壊していった。
言葉が異次元の暴力になるこの時代。不倫を報じられ、SNSで苛烈な誹謗中傷にあったお笑い芸人・天童ショージは自ら死を選んだ。ほんの少し時を遡れば、伝説の歌姫・奥田美月は週刊誌のデタラメに踊らされ、人前から姿を消した。
彼らを追いつめたもの、それは――。＊ ＊ ＊
■宣戦布告■
よく聞け、匿名性で武装した卑怯者ども。
SNSなんてなくなればいいのにな。えっ、ダメ？ 余計なこと言うなって？ そうだよなぁ。やっとおまえら権力者になれたもんな。炎上させて誰かが何かを諦めたときに、社会を変えてやったと実感できるもんな。そうやって表面的な正義感で研いだナイフで、悪意の塊でつくった毒で世直ししてるもんな。
やっぱり俺は週刊誌とおまえたちを赦せない。
だからやってやるよ。俺には俺の、ケジメのつけ方ってもんがあるんだよ。これから重罪認定した八十三人の氏名、年齢、住所、会社、学校、判明した個人情報の全てを公開していく。
八十三なんて数字は氷山の一角に過ぎない。だが、図に乗ってると、次はおまえの番になるから肝に銘じておけ。明日にはおまえたちの人生はめちゃくちゃになっている。
奥田美月や天童ショージのように。
せめて今日を楽しめ。あばよ。
踊りつかれて より
暴かれる匿名 ネット社会の闇に踊らされた者たち
物語は、ネット上に投下された一つの「爆弾」から始まります。
ある日、「枯れ葉」と名乗る匿名の人物が自身のブログに
《宣戦布告》と題した挑発的な文章を投稿しました。
それはSNS上で悪質な誹謗中傷を繰り返した83人もの実名と個人情報を一挙に晒し、
「明日にはおまえたちの人生はめちゃくちゃになっている」と宣言する衝撃的な犯行声明です。
この突然の暴露に世間は騒然となり、ネット上には恐怖と混乱が広がっていきます。
実はこの《宣戦布告》の背景には、直前に起きた二つの痛ましい事件がありました。
一つは人気お笑い芸人・天童ショージの自死です。
彼は不倫スキャンダル報道をきっかけにSNS上で激しい中傷を浴び、
心身を追い詰められた末に命を絶ちました。
もう一つは伝説的歌姫・奥田美月の失踪事件です。
彼女は事実無根のゴシップ記事に翻弄され、
深く傷ついて表舞台から姿を消してしまったのです。
これらの出来事で「言葉の暴力」が社会問題として浮き彫りになる中で
突きつけられたのが、先述の《宣戦布告》でした。
謎の人物「枯れ葉」は宣言通り、SNS上で誹謗中傷を繰り返していたとみられる
83名の個人情報(氏名、年齢、住所、勤務先や通学先など)を次々と公開していきます。
名指しされた中には、天童や奥田へのネット上の攻撃に加担していた者たちも含まれていました。
普段は匿名の陰に隠れて他人を攻撃していた彼らの素顔が暴かれ、
一転して彼ら自身が世間の非難の的となります。
公表された個人情報を手がかりにSNS上では
「あの投稿者は○○だった」などと個人特定が瞬く間に進み、
職場や学校に非難の電話が殺到するなど晒された人々の生活は一夜にして崩壊しました。
中には世間からの批判に耐えきれず失踪する者や、
逆に「枯れ葉を見つけ出して復讐してやる」と息巻く者も現れます。
まさに《宣戦布告》の予告通り、「おまえたちの人生」は
次々とめちゃくちゃにされていったのです。
高度な匿名工作で正体を隠していた枯れ葉でしたが、
専門のサイバー捜査班による追跡の末、ついに身元が判明します。
そして捕らえられた枯れ葉の正体は瀬尾という男性で、
ネット上での名誉毀損などの容疑で逮捕されました。
瀬尾の逮捕によって一連の事件はひと区切りつきます。
しかし物語はここから、瀬尾の真意と動機を探る新たな局面に入っていきます。
瀬尾は弁護士の久代奏（ひさしろ かなで）を自らの弁護人に選びました。
奇しくも久代は天童ショージの高校の同級生で、
親友を誹謗中傷によって失った過去を持つ人物です。
久代は依頼人となった瀬尾のため、そして亡き友人の無念を晴らすためにも、
瀬尾の行動の背景を明らかにしようと決意します。
久代は接見や関係者への聞き取りを丹念に行い、
瀬尾という人物の素顔に迫っていきます。
調査の中で、瀬尾は奥田美月の一時代を築いた同士であり、
彼女の悲劇に強い憤りを感じており、
お笑い好きとして天童の死にも、深い無力感と怒りを募らせていたことが分かってきました。
普段は物静かで正義感の強い瀬尾は、社会の不条理に耐えきれなくなり、
ついに極端な行動に走ってしまったのです。
ある知人は「彼は本当は誰より優しい人間だったのに、世の中の酷さに心を病んでしまったんだ」と瀬尾を擁護しており、
彼がどれほど追い詰められていたかが浮かび上がります。
やがて瀬尾の裁判が開かれます。
法廷では検察から「許されない私刑だ」と厳しく非難される一方、
弁護側の久代は「誰も責任を問われない現状への復讐心が彼を駆り立てたのだ」と情状を訴えます。
『踊りつかれて』の感想
匿名の凶器、言葉の弾丸
本作を読み終えてまず感じたのは、
圧倒的な没入感と社会的メッセージの強さです。
冒頭の《宣戦布告》から一気に物語に引き込まれ、
ページをめくる手が止まりませんでした。
匿名の「枯れ葉」による告発劇はスリリングで、
次に何が起こるのかとハラハラさせられます。
同時に、SNS上の誹謗中傷が現実に人の命を奪いうるという重い事実が突きつけられ、
読んでいて胸が痛くなる場面も多々ありました。
エンターテインメント性と社会性をこれほど高いレベルで両立させている点に、
著者・塩田武士さんの筆力を改めて痛感させられます。
物語のテーマはまさに「週刊誌の罪 × SNSの罰」という副題に表れています。
週刊誌による無責任なスキャンダル報道（奥田美月のケース）と、
SNS上の無数の個人による私刑的な中傷（天童ショージのケース）という二つの“暴力”が描かれ、
その結果引き起こされる悲劇が克明に綴られていました。
特に印象的だったのは、作中で「安全圏からのスナイパー」という表現が使われていたことです。
匿名の陰に隠れて他人を攻撃する加害者たちを、
遠く安全な場所から他人を撃ち抜く狙撃手になぞらえた痛烈な比喩で、
これ以上にない例えだと感じました。
また「人類はSNSを使いこなすほど賢くはない」という劇中の言葉にはハッとさせられます。
便利なはずのSNSが凶器にもなりうる現実を、
本作は真正面から示しており、現代に生きる読者として非常に考えさせられました。
キャラクターの描写も見事で、特に瀬尾の人物造形には心を揺さぶられました。
序盤では謎の存在として恐ろしく映る枯れ葉＝瀬尾ですが、
物語が進むにつれて彼の抱えていた正義感や絶望が明らかになり、
単純な「悪」として片付けられない複雑さを帯びていきます。
自ら法を破ってまでも加害者を裁こうとした瀬尾の動機にはある種の共感すら覚えましたが、
同時に彼の行為が新たな犠牲（晒された83人）を生んでしまった事実には苦いものが残ります。
このように、正義と悪意の境界線が揺らぐ様を描いた点が本作の白眉であり、
読者としても「本当の悪とは何か？」「正義の実現には何が必要か？」といった
問いを突きつけられる思いでした。
また、天童ショージと奥田美月の被害者側の人生にも丁寧にスポットが当てられており、
彼らの無念さが伝わってくるからこそ、
なおさらSNS社会の在り方を変えていかねばという気持ちにさせられます。
また、裁判の場で浮き彫りになる「法と正義のギャップ」には
やるせない思いを抱かずにいられません。
自ら誹謗中傷を行った者たちは法的に罰せられない一方で、
それを制裁しようとした瀬尾だけが裁かれるという皮肉な結末は、
現実社会でも起こりうる理不尽さを突きつけています。
瀬尾の行為は決して肯定できるものではないにせよ、
彼の大切な人を執拗に苦しめた加害者たちが
誰も法で裁かれないままでいいのかという葛藤がありました。
読者としても、単純に「枯れ葉は悪だ」と断じてしまうことのできないもどかしさを覚えました。
全体を通して、本作『踊りつかれて』は私たちに多くの示唆を与えてくれる作品でした。
ネット社会の光と闇、人と人との距離感、正義感と暴走は紙一重であること
どの要素も現実と地続きだからこそ重く心に響きます。
著者は元新聞記者という経歴もあり、
取材に裏打ちされたリアリティある描写が随所に感じられました。
フィクションでありながら、まるで現在のニュースを見ているかのような生々しさがあり、
「自分だったらどうするだろう？」と何度も考えさせられます。
そして社会派小説としての完成度も非常に高く、
直木賞候補に選ばれたのもうなずける作品だと感じました。
最後に
ここまで本書について紹介してきました。
現代のネット社会に鋭く切り込んだ衝撃作であり
読み終えた後には多くのことを考えさせられ、心に深く刻まれるものがありました。
本書が気になる方は、是非手に取ってみてください！
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