こんにちは!しょーてぃーです!
今回は、燃え殻さんの『すべて忘れてしまうから』について紹介をしていきます!
この記事でわかること
- 『すべて忘れてしまうから』の全体像と、どんなエッセイ集なのか
- 収録エピソードの雰囲気と、読んでいて胸に残るポイント
- この本がどんな人に刺さるのか、そして読後に残るもの
本書の概要
『すべて忘れてしまうから』は、燃え殻さんによる初のエッセイ集です。本書には50編以上の短いエッセイが収録されていて、著者自身の日常や家族、恋愛、人とのすれ違いが、やわらかく、でも少し切なく綴られています。
巻頭には「良いことも悪いことも、そのうち僕たちはすべて忘れてしまうから」という一文が置かれています。この言葉どおり、本書は“忘れてしまうはずのもの”を、いったん立ち止まって見つめ直すような本です。深夜ラジオを聴く夜、祖母とのサファリパーク、駅のホームで言われたひと言、コンビニ店員の優しさなど、どれも大事件ではないのに、なぜかずっと心に残るんですよね。
内容紹介では「人生はままならない。だから人生には希望が必要だ」というメッセージも掲げられています。本書内の記述の範囲では、忘却と希望がずっと並んでいて、懐かしさだけで終わらないのが特徴だと感じました。ただ昔を振り返るだけじゃなく、いまを生きるために記憶を拾い直しているようなエッセイ集です。
本書をオススメしたい人
- ノスタルジーや郷愁を感じる文章が好きな人
- 日常の小さな出来事に、じんわり心を動かされたい人
- 燃え殻さんの空気感や、共感型のエッセイが好きな人
正直、あまり向いていない人
- 明確なストーリーラインや強い起伏を求める人
- 結論がはっきりした実用書のような読み味を期待する人
- 感傷や余韻より、論理や情報量を重視したい人
『すべて忘れてしまうから』のあらすじ
あらすじ(ネタバレ控えめ・前半)
この本は、小説のように一本の大きな筋があるわけではありません。章ごとに短いエッセイが並び、著者の記憶の断片が少しずつ差し出されていきます。でも、読んでいくうちに、それぞれがばらばらの話ではなく、「忘れてしまうものを、それでも残しておきたい」という一本の気持ちでつながっていることが見えてきます。なので、あらすじというより“流れている感情”を追う本に近いと思います。
たとえば家族の話があります。母親は、著者の本が出るときに「あなたの本なんて誰が買うのかしら」と心配したと書かれています。このひと言だけ見ると少し冷たくも見えるんですが、実際には不器用な愛情なんですよね。親って、応援しているのに、素直に応援っぽく言えなかったりします。その感じが、すごくよく出ています。
父親のエピソードも印象的です。著書の発売時、父親が新宿の書店へ行って、息子の本を5冊買ったという話が出てきます。これも派手な愛情表現ではないけれど、読んでいてじわっときます。大きな言葉じゃなくても、人の気持ちは行動に出るんだなと思わされます。こういう場面が、この本にはいくつもあるんですよね。
幼少期の記憶としては、祖母と富士サファリパークへ行った話があります。これも何気ない思い出なんですが、いま思い返すからこそ、やたらと大切に見えるタイプの記憶です。子どもの頃にはわからなかった誰かのやさしさや、二人きりで過ごした時間の特別さが、静かに立ち上がってきます。こういう「あとから効いてくる思い出」が多いのが、本書の大きな魅力だと思います。
一方で、やわらかい思い出ばかりではありません。小学生のときに猫をドラム缶に閉じ込めてしまった昔話のように、後悔や、自分の中に残っている小さな罪悪感も語られます。本書は、過去を美化しすぎないんですよね。懐かしいことは懐かしいまま、でも少し苦いものは苦いまま残している。そのバランスがあるから、感傷に寄りすぎず、読み手も自分の記憶を重ねやすいんだと思います。
恋愛の断片も多く登場します。「彼女は駅のホームで突然『バカ』と言った」というエピソードのように、ごく短い時間やひと言が、ずっと記憶に残ってしまうことがありますよね。何年経っても、なぜか忘れない声や表情がある。本書はそういうものを、無理に意味づけしないまま、そっと差し出してきます。それが逆にリアルで、大人の読者ほど刺さるんじゃないかなと思います。
また、「セックスしなくても幸せだった夜」のように、タイトルだけ見ると少し挑発的なのに、読んでみるとすごく静かで、ぬくもりのある話もあります。本書の中の恋愛は、ドラマチックというより、届ききらない感じや、ちゃんと伝わらなかった感じが多いです。でもそれが、人生の実感に近いんですよね。完璧な恋より、少し足りなかった夜のほうが忘れられなかったりする、あの感じです。
そして本書を語るうえで外せないのが、「死にたいんじゃない。タヒチに行きたいんだ」というフレーズです。これは、読者からの「死にたい」という相談に対する、燃え殻さんなりの返答として紹介されています。ものすごく軽やかな言い換えなのに、実はかなり本質的だと思いました。消えてしまいたい気持ちの奥には、どこかへ行きたい、ここじゃない場所を見たい、という願いが混ざっているのかもしれない。そう思うと、少しだけ息がしやすくなるんですよね。
全体を通して、本書のあらすじを一言で言うなら、「忘れてしまう日々を、忘れてしまう前に書き留めた本」だと思います。特別な事件は起きません。でも、コンビニ店員のひと言、写真の中の誰かの声、予定のないクリスマスイブ、映画館では端の席に座りたくなる気持ち。そういう、名前をつけるほどでもなかった感情が、ひとつずつ掬い上げられていきます。読んでいると、自分の中にも似たような断片がたくさん眠っていたことに気づかされます。
だからこの本は、「何が起きるか」を楽しむ本ではなく、「何が残るか」を味わう本です。前半の時点でもう、その空気ははっきりしています。読者は著者の記憶を読んでいるようで、だんだん自分の記憶を読んでいる気分になる。そういう不思議なエッセイ集なんですよね。
この作品はどんな読書体験か
『すべて忘れてしまうから』は、物語に引っぱられるというより、言葉の温度にじわじわ浸されていく読書体験だと思います。
短いエッセイが続くので、テンポよく読めるのに、一編ごとに小さな余韻が残ります。深夜ラジオみたいな距離感で話しかけられているうちに、自分の昔のことまで思い出してしまうんですよね。
読んでいて派手に泣かせる本ではないです。でも、ふと油断したところに静かに刺さってくる。そういう本です。
『すべて忘れてしまうから』の感想
感想①:テーマ
この本のいちばん大きなテーマは、やっぱり「忘れてしまうこと」だと思います。良いことも悪いことも、そのうち僕たちはすべて忘れてしまう。その前提があるからこそ、一つひとつの思い出が急に大事なものに見えてくるんですよね。忘れることは悲しいけれど、忘れるからこそ、残しておきたくなる気持ちも生まれる。そこがこの本の核にあると思います。
ただ、本書は「忘れないようにしよう」と力んでいるわけではありません。むしろ、どうせ忘れるのだから、そのこと自体を受け入れたうえで、それでも今この瞬間に意味を見つけようとしている感じがあります。その姿勢がすごく優しいです。記憶にしがみつくんじゃなくて、消えていく途中のものを、いったんそっと撫でるような感じ。ここが燃え殻さんの文章の大きな魅力だと思います。
そしてもう一つ、この本には「希望」が流れています。内容紹介にもあるように、「人生には希望が必要だ」という感覚が、全編を通してうっすらと漂っています。たとえば「死にたい」を「タヒチに行きたい」と言い換える話なんて、その象徴みたいなものですよね。大げさに励ますのではなく、ほんの少し視点をずらすことで、生きるほうに身体を向け直させる。そういう小さな希望の置き方が、とても上手いなと思いました。
この本を読んでいると、「人生はそんなに劇的じゃない。でも、だからこそ救われる瞬間も小さくていいんだ」と思えてきます。大逆転や奇跡みたいなものじゃなくて、コンビニでかけられた優しいひと言とか、父親が5冊買ってくれた本とか、そういうもので人は案外持ちこたえられるのかもしれない。派手じゃないけど、すごく大事なことをこの本は書いている気がします。
感想②:人物(語り)
この本でいちばん魅力的なのは、やっぱり語り手としての燃え殻さん自身です。強く見せようとしないし、かっこつけすぎないし、自分の未熟さや情けなさもちゃんと出してくる。その感じがすごく自然で、読む側も肩の力が抜けます。上手に生きている人の話ではなく、どこかでつまずきながら、それでも毎日をやっている人の話として読めるのがいいんですよね。
母親や父親の描き方も印象的でした。母親は心配性で、不器用で、少しきつく見える瞬間もある。でもそれが、単純な“いいお母さん”にされていないぶん、すごくリアルです。父親も寡黙で、ストレートな言葉より行動で気持ちを見せるタイプとして描かれています。どちらも、家族というもののわかりにくさと温かさを同時に持っていて、読後にずっと残ります。
恋愛の相手として描かれる「彼女」たちも、くっきり輪郭があるというより、むしろ断片として残る存在です。だからこそ、本当に記憶の中の人っぽい。写真の中のあの人はどんな声をしていたんだろう、と考えてしまう感じは、すごくよくわかります。はっきり思い出せないのに、忘れたくない。人って、意外とそういう曖昧な人たちに支えられて生きてるのかもしれません。
それから、異国から来たコンビニ店員のエピソードみたいに、人生を変えるほどではないけれど、確かに救ってくれた人も出てきます。この本に出てくる人物たちは、みんな少しだけ距離があって、でもちゃんと体温がある。その距離感が、すごく今っぽいし、同時に普遍的でもあると思いました。ベタベタした感動じゃないのに、いつの間にか心の近くにいる。そういう人物の置き方がうまいです。
感想③:読後感
読後感は、やさしいです。でも、ただ優しいだけじゃなくて、少し寂しい。でもその寂しさが嫌じゃないんです。むしろ、「生きてるってこういう感じだよな」と思わせる種類の寂しさで、そこに小さな温度が混ざっている。だから読み終えたあと、静かに呼吸が深くなる感じがありました。
この本は、何かを教えてくれる本というより、自分のなかにあるものを思い出させてくれる本だと思います。昔の恋人のこと、親の言葉、もうなくなった店、あの頃の自分。そういうものを無理やり引っぱり出してくるんじゃなくて、「あ、そういえば」と自然に思わせてくる。そのさりげなさが本当に上手いです。
あと、短いエッセイ集なのに、意外と“本を読んだ感じ”がしっかり残るんですよね。一話ごとの密度が高いからだと思います。1話3〜4ページくらいでも、最後にちゃんとひとつ爪痕を残していく。だから、忙しい日に少しずつ読むのも合うし、しんとした夜に一気に浸るのも合う。どちらにしても、読後に世界がちょっとだけやわらかく見えるタイプの本です。
強いて言えば、一本の大きな物語や強い展開を求める人には向かないかもしれません。でも、それは弱みというより、この本が守っている静けさなんだと思います。大声では言えない感情や、うまく説明できない懐かしさを、そのままの形で置いてくれる。そういう本って、意外と少ないです。だからこそ、はっきりと好き嫌いは分かれても、刺さる人には深く刺さる一冊なんじゃないでしょうか。
この作品が投げかける問い
どうせ忘れてしまうのに、なぜ人は誰かの言葉や、あのときの景色を大切に抱えていたいんでしょうか。
そして、忘れてしまうからこそ、今ここにある小さな優しさを、もっとちゃんと受け取るべきなんじゃないか。『すべて忘れてしまうから』は、そんなことを静かに問いかけてくる本だと思います。
最後に
『すべて忘れてしまうから』は、何気ない日常の断片を集めながら、忘却と希望のあわいをやさしく照らすエッセイ集でした。大きな出来事ではなく、小さな記憶や人とのやりとりが、こんなにも心を支えているんだと気づかせてくれます。忙しい毎日のなかで、少し立ち止まりたいときにぴったりの一冊だと思います。
燃え殻さんのような共感型のエッセイや、日常を丁寧にすくい上げる文章が好きな方は、ほかのエッセイ記事もあわせて読むと、きっと好みが広がるはずです。
気になった方は、是非を手に取ってみてください。

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