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『ブラックボックス』のあらすじと感想について 【芥川賞受賞作品】

小説

こんにちは!しょーてぃーです!

今回は、砂川文次さんの

『ブラックボックス』について紹介をしていきます!

 

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『ブラックボックス』について 

本書の概要

第166回芥川賞受賞作です。

 

舞台は東京であり

コロナ禍での非正規労働者の

現実を描いた物語です。

 

本書をオススメしたい人

・芥川賞受賞作が気になる人

・将来に不安を感じる人

・非正規労働者の現実と葛藤を知りたい人

 

主人公のサクマは都内で自転車便の

メッセンジャーとして働いています。

※メッセンジャーとは自転車を使った宅配業のことです。

 

サクマは、先行き不透明な現代と

漠然とした将来の不安を抱えながら生活をしています。

 

30歳に近付くサクマは

メッセンジャーとして福利厚生の無い

個人事業主として働いていますが

「いつかちゃんとしないと」と思いながらも

「ちゃんとする」方法や意味が分からないまま

毎日を過ごしています。

 

本書では非正規労働者の

将来に対する漠然とした不安について

生々しく書かれており

非正規労働者の心情を

かなり知ることができます。

 

『ブラックボックス』のあらすじ

ネタバレのないあらすじ

ずっと遠くに行きたかった。

今も行きたいと思っている。

自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。

自衛隊を辞め、いまは自転車メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。

昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、

どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。

張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。

(本書より)

気鋭の実力派作家、新境地の傑作。

引用元:ブラックボックス 

 

ネタバレを含むあらすじ

以下はネタバレを含むあらすじになります。

 

物語前半部分のあらすじ

メッセンジャーとして働く

佐久間亮介(以降:サクマ)は

雨が降る日に自転車で信号が変わりそうなタイミングで

渡ろうとしたところ

ベンツに轢かれそうになり落車しました。

 

サクマ自身は大きな怪我なく無事でしたが

故障した自転車を修理するために営業所へと戻ります。

 

サクマはこれまで職を転々としてきました。

 

高校を出てすぐに

自衛隊に入隊するも先輩隊員と殴り合って辞めました。

 

不動産の営業職に就いた時も

社長の息子に悪態をついて1年で辞めました。

 

その後は寮がある工場や現場で

契約社員やアルバイトとして働き

行き着いたのがメッセンジャーでした。

 

仕事の成果分お金が貰えて

自転車を漕ぐときには

不安や余計なことを考えずに済む仕事は

サクマにとって何となく合いました。

 

とはいえ、今の「身体を張った」生活に

サクマは疑問を持っています。

 

「今はこれでいいとして、歳を取ったらどうなるんだろう」

しかしサクマの内省は、すぐに思考は停止してしまい

現実から目を背け続けます。

 

一方で、「繰り返される日々」にも

嫌気がさしていました。

 

今回の事故をきっかけに

漠然と将来の不安を感じていたところ

営業所で所長の滝本に呼び出され

正社員登用の話を切り出されます。

 

正社員は福利厚生がつく魅力はありますが

業務が多くなる上に安月給となってしまうので

サクマはその話を保留してしまいます。

 

またサクマは過去の職場を転々とした原因を

すぐにカッとなって手や口が出てしまうことだと自覚します。

 

しかし自転車便の営業所でも、悪い癖が出てしまいます。

所長の滝本が、かつての同僚で

今は独立した近藤のことを

揶揄することを聞いたサクマは

「そういうのダセえからやめたほうがいいっすよ」と

口に出してしまいます。

 

結果、干される形でシフトを減らされ

フードデリバリーに転じました。

 

フードデリバリーもメッセンジャーも

大して変わらないことに気づいたサクマには

同棲している円佳がいました。

 

避妊しなかったため妊娠した円佳と

共同生活する中で、「ちゃんとしなきゃいけない」と感じます。

 

しかし、なかなか定職に就こうとせず

今をやり過ごしてしまいます。

 

そんなサクマに苛立ってしまう円佳と

口論になっているところ

自宅のインターホンが鳴ります。

 

物語後半部分のあらすじ

彼らの家に、税務署から二人の調査官がやってきました。

理由はサクマに納税を督促するためです。

 

身元保証人がおらず

職を転々としていたサクマは

今まで納税をしてこなかったのです。

 

しかしサクマ自身も勤め人時代から

「税金」「事務作業」などの細かいことが

全く理解できずにフリーズしてしまいます。

 

税務署の職員が言っている内容が

よくわからないと感じていましたが

サクマなりに説明を聞いていました。

 

しかし、調査官の1人が

少し笑ったように見えたとき

円佳との口論も相まって

サクマの中に暴力衝動が湧き上がります。

 

制御できないサクマは

手近にいた調査官に

いきなり頭突きをして大怪我をさせます。

 

また、笑った方の調査官が

危機感を感じて逃げ出すも

サクマがそれを追いかけると

偶然やってきた二人組の警察官と出くわしてしまいます。

 

サクマは制止されますが

ここでも立ち回りを演じて、腕を脱臼しながら

警察官二人を負傷させて

戦闘不能にまで追い込みます。

 

その後、逮捕されたサクマは刑務所に送られます。

 

刑務所で同部屋となった

伊知原の言動に腹立ったサクマは

刑務所内でもトラブルを起こしますが

刑務所の生活の中で

生きることについて自分なりの答えを探します。

 

『ブラックボックス』の感想

物語の急展開っぷりがすごい

本書は物語の前半部分と

後半部分で全く違う物語に感じるほど

急展開を見せてくれます。

 

前半部分は、メッセンジャーの仕事について

かなりリアルに書かれた描写が多かったです。

歩行者の波に吞まれる前に、サクマはハンドルを右へと切ってそのままシャドウに入った。上げろ上げろ上げろ、と胸の内で小さくつぶやいく。ギアをもう一枚上げる。

ペダルがまた重くなった。ここでようやくサドルに腰を下ろし、

一瞬視線を下に落として身体と機材の調子を確認した。万事順調だ。

視線を戻すと青看板が見えてきた。飯田橋。日本橋。半蔵門。外堀通り。青地に白の矢印

引用元:39ページ

今日の稼働率を考える。午前中いっぱいは多分潰れた。午後にどのくらい走れるだろうか。

今日の取り分は、多分よくて八千円、実際は七千円前後だろう、と見積もる。

引用元:19ページ

 

自転車で走る疾走感や

歩合性である仕事内容のリアルさを

忠実に表現されている印象でした。

 

また、身体1つで稼ぐ仕事についての不安や

同僚との正社員登用についての話も

将来を不安視する労働者のリアルな声なんだなと感じました。

 

身体には何かがあっても補償も何もなく、基本的には自己責任で片付けられてしまう

引用元:28ページ

 

また、後半部分は、刑務所内の話がメインです。

 

刑務所に行くことになった理由や円佳との関係性から

刑務所内のルールや仕組みに順応していく

サクマの変化もリアルさをかなり感じる描写でした。

 

ちゃんとすることとは?

自衛隊員や不動産営業などの職を転々として

自転車便専門の歩合制メッセンジャーとして働くサクマも

30歳を目前に「ちゃんとしなきゃ」と思います。

 

しかし「ちゃんとすることについて」と

「ちゃんとする方法」の具体策が不明なサクマは

感情の暴発が抑えられずに転落してしまいます。

 

制度や規律・集団生活と個人という

学校生活で自然と植え付けられるこれらのテーマは

学校生活をドロップアウトした過去のある

サクマは馴染めないでいます。

 

本書では職場での陰口などの

あるあるについて違和感を感じまくるサクマの

皮肉めいた解釈が読者に突き刺さります。

 

また「刑務所に入った」と聞くと

「人生終わった」と誰しもが思いますが

そう思っても人生は続きます。

「社会から逸脱してしまい、ネットで『終わりだよね』といわれた人であっても、

当然人生は続く。それって外の人には見えないですよね。若い人たちの焦燥感を掘り下げたかった」

引用元:著者インタビュー

 

著者の言葉通り

若者の焦燥感をかなり掘り下げた作品だなと感じました。

 

ずっと遠くに行きたいサクマ

繰り返される日常の中サクマは

「ずっと遠くに行きたい」と感じていました。

 

遠くとは、具体的な場所ではなく

繰り返されている日常からの脱却のことです

 

しかし、刑務所ほど

規則正しく繰り返される日常はなく

刑務所生活を続けることで

遠くへ行きたいという心情に変化が生じます。

 

またサクマは、自分は自身の暴力を

自分のために行動していますが

客観的に見れば、被害を受けた他人のために行動しています

 

サクマの怒りの矛先は以下の通りです。

  • 同僚に突っかかった客
  • 出所できそうな人を嫉妬から挑発する同室の人間

サクマにしてみれば、本当にただ頭にきて伊地知を殴ったりかみついたりしただけで、向井を守ろうという意図はこれっぽっちもなかった、ただ伊地知が向井にしてきた行為もムカついていて、そういうのが蓄積されて行動になっただけだ。

引用元:156ページ

 

サクマ自身は直接被害を受けていないのに

理不尽や苛立ちに耐えられず損をしてしまいます。

 

繰り返しから逃れるために

遠くに行きたいと思っていたサクマでしたが

繰り返される日常でも

少しずつ違う日々であることに気づきました。

 

最後に

ここまで本書について紹介してきました。

 

若者の不安や焦燥感を

かなり生々しく書かれた本書は

芥川賞受賞作になるべき作品だと改めて感じました。

 

また、物語を通じて

「ちゃんとすること」「どうすればいい?」など

焦っても具体策が全くわからない状態であることから

「ブラックボックス」というタイトルなのかなと

個人的に感じました。

 

本書が気になる方は

是非手に取ってみてください!

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