『新・貧乏はお金持ち』について
橘玲さんの『新・貧乏はお金持ち 「雇われない生き方」で格差社会を逆転する』は、プレジデント社から刊行されている一冊です。2009年に出版された『貧乏はお金持ち』の改訂版で、16年ぶりに内容がアップデートされています。
著者の橘玲さんは、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビューした作家で、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』や『言ってはいけない 残酷すぎる真実』など、お金や社会の仕組みをテーマにした著作で知られています。本書もその延長線上にあるテーマだと感じました。
構成としては、フリーエージェントとマイクロ法人の未来を語るパートから始まり、マイクロ法人という働き方の仕組み、自由に生きるための会計、法人と税金、そしてキャッシュフロー管理まで、5つのパートに分かれています。
サラリーマンとして働きながら、手取りの減り方や社会保険料の負担に漠然とした不安を感じている人。あるいは「雇われない働き方」や税金・社会保険の仕組みに関心がある人に向いている本だと感じました。
要約まとめ|4つのポイント
①「雇われない生き方」という考え方
本書内の記述の範囲では、「良い大学に入り、大企業に就職し、定年まで雇われる」という昭和的なモデルが前提として機能しにくくなっている、という話が語られています。終身雇用や年功序列を前提にした人生設計そのものが、もはや当たり前ではなくなっているという指摘です。
そのうえで、個人が主体的に人生の設計を考える必要性が繰り返し語られている印象を受けました。国家に対して不満を言うのではなく、国家がつくった制度を理解したうえで、それを自分のために使いこなす。本書全体を通して、そういうスタンスが一貫しているように感じます。
つまり本書が主張しているのは「会社を辞めろ」という話ではなく、「雇われている・いないにかかわらず、制度への理解度が人生の自由度を左右する」という考え方なのだと受け取りました。
②マイクロ法人という発想
本書では「マイクロ法人」という考え方が紹介されています。個人が小さな法人を持ち、「個人」と「法人」という2つの人格を使い分けることで、所得や税金、社会保険料の負担を調整するという発想です。
具体的には、法人を通じて経費を計上できるようになること、社会保険料の設計をある程度自分でコントロールできるようになること、資金調達や損失の繰越といった法人会計の仕組みを活用できることなどが、本書内で触れられています。
本書内でも触れられていますが、これは単なる節税テクニックというより、制度の仕組みを理解したうえで自分の働き方や人生全体の収支をデザインするための考え方として書かれています。マイクロ法人はあくまで「手段」であって、目的は自分の人生の自由度を上げることだという位置づけです。
また本書内では、こうした発想を実践するために必要な知識として、おおまかに以下のような分野が挙げられています。
- 会計の基礎(損益や経費、帳簿の考え方)
- 税務の基礎(所得税・法人税・控除の仕組み)
- 社会保険の仕組み(保険料の負担構造)
- 法人運営の実務(設立や報酬設計)
- 資産運用の基礎(投資商品やリスクの考え方)
- ファイナンスの考え方(資金調達や資本コスト)
これらすべてを完璧に理解する必要があるというより、「何を学べば選択肢が広がるのか」を示す地図のような役割を、本書が担っているように感じました。
③16年で「あべこべ」になった常識
新版のまえがきでは、2009年の刊行当時と比べて、16年の間に税制や社会保険の常識が大きく変わり、当時有利だった方法が今では逆になってしまった、という趣旨のことが書かれています。
たとえば旧版の頃は「法人はあえて赤字にして、個人の側で納税する」方が有利とされていたけれど、新版では法人税率の変化などにより「個人の所得を抑えて、法人側で納税する」方が有利になっている、という変化が語られています。
また、副業の解禁やSNSを使った個人ビジネスの広がりなど、働き方そのものの選択肢が増えてきたことにも触れられていました。16年前には現実的でなかった選択肢が、今は当たり前になりつつある、という時代の変化を感じさせる部分です。
制度は一度覚えて終わりではなく、変化し続けるものなのだと改めて感じさせられる部分でした。過去に読んだことがある人ほど、「あの頃の常識はもう通用しない」というギャップに驚くところが多いのではないかと思います。
④サラリーマンと社会保険料の話
本書内の記述の範囲では、給与から自動的に天引きされる社会保険料の仕組みや、いわゆる「ステルス増税」と呼ばれる負担増について触れられています。企業が賃上げをしても、社会保険料の上昇によって手取りの増加が実感しにくくなっている、という指摘もありました。
一方で、自営業や法人という立場であれば、報酬の設計や経費の使い方についてある程度自分で調整できる余地がある、という対比が本書内で語られています。会社員は給与明細の内容がほぼ自動的に決まるのに対して、法人であれば報酬額そのものを自分で設計できる、という違いです。
本書内では、会社員として働いている間は社会保険や税金の仕組みを意識しなくても生活が成り立ってしまう一方で、退職して自分自身で保険料や税金の手続きをする立場になったとき、その負担の大きさに驚くことがある、という趣旨のことも語られていました。投資や節税というより、働く人の多くに関わるテーマとして書かれているように感じました。
感想
正直、税金や社会保険料の話は制度的な内容も多く、読んでいて少し重く感じる部分もありました。図や数字が出てくる箇所は、一度読んだだけでは頭に入りきらないところもあったというのが正直なところです。
それでも、「知らないままだと損をする」というメッセージは、今の働き方に迷いがある人ほど刺さる内容なのかもしれません。給料から天引きされる金額の中身を、これまであまり意識してこなかった自分に気づかされました。
雇われる生き方が必ずしも安定とは言えなくなりつつある今、本書で紹介されている考え方を知っておくこと自体に意味があるように思います。すぐに何かを変えなくても、選択肢として頭の片隅に置いておくだけで、見える景色が少し変わる気がしました。
マイクロ法人という選択肢も、すぐに実践するかどうかは別として、「そういう仕組みがある」と知っておくだけで、将来の選択肢が少し広がる気がしました。読み終えたあと、自分の働き方を一度棚卸ししてみたくなる本でした。
まとめ
『新・貧乏はお金持ち』は、単なる節税本というより、雇われない生き方を選ぶための考え方や制度の理解を示してくれる一冊だと感じました。今の働き方にどこか不安を抱えている人は、一度手に取ってみると気づきがあるかもしれません。

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